そのシルエットの正体を認識するまで大した時間は必要なかった。
そこに立っていたのが昨日同様の『白い人』であると私が理解すると同時に、
『白い人』はこちらに向かって突進していた。
車の後部座席を乗り越えると隣に座っていた男の頭部を殴りつけた。
そして、男が態勢を崩したところで何発かパンチを打ち込み、
倒れた男を踏みつぶす形で床に抑えこむと私の方を向いて口を効いた。
「お怪我は?」
「……大丈夫です。」
「結構!」
その声はごく最近聞き覚えたものによく似ていた。
だが、その正体に思い至る前に、
前方助手席の男がシートベルトを外し終え、こちらに拳銃を構えていた。
私は思わず身構えたが、『白い人』は違った。
一瞬前まで踏みつけていた男を左手で無理やり掴んで起こすと、
助手席の男の構えた銃口の前に突き出した。
助手席の男は、盾にされた男を見てひるんだ様子を見せた。
次の瞬間、『白い人』はいつの間にか昨日使っていた杖を右手に持ち、助手席の男に突き立てた。
車内には眩い閃光が走った。
光が収まるのと同時に車には急ブレーキがかかった。
シートベルトをしていなければ運転席の後ろに頭をぶつけていたことだろう。
助手席の男はダッシュボードにもたれる形で伸びており、隣の男は引き続き『白い人』に掴まれている。
そして、先ほどまで運転していた男は運転席から立ち上がるとこちらを振り向いた。
男はそのまま『白い人』を睨みつけた。
『白い人』は運転席の男の様子を伺いつつ、左手で掴んでいた隣の男の首を離した。
運転席の男はその瞬間を見逃すことなく、勇敢に『白い人』に掴みかかった。
しかし、その勢いを利用される形で車の後方に投げ飛ばされていった。
『白い人』はその様子を最後まで見届けることなく、杖の先端を車のスライドドアの方向に構えた。
杖の先端に光が集中し、一瞬の間の後、光は杖を構えた方向に溢れ、そのままドアを破壊した。
『白い人』は再びこちらを向き直ると車の後方を指して言った。
「しばらく行ったところで迎えの車が待機してる。全速力でそこまで逃げてほしい。」
「……あなたは?」
「…多分すぐに増援が来る。連中を食い止めなきゃいけない。」
「そうじゃなくて。」
「…説明はまた後で必ずさせてもらう。今は君自身の安全を第一に考えてほしい。」
「…あなた達を信用しろと?」
「…今の君には酷なお願いかもしれないが…。…頼む。」
私は既に『白い人』の正体を察していた。
「…分かりました。」
『…篠崎、状況を報告しろ。』
車のダッシュボードに積まれた機材から無線らしい音声が鳴っている。
「さあ、早く。」
『白い人』に背中を押された私は、ケースを持って車から飛び出すと、全力で指示された方角に走った。
1分ほど走った先には予想通り、1台の軽自動車とマイさんが待っていた。