【Chapter 4】

 

 

「コラッ‼止まれッ‼」

 

私はケースを抱え、精一杯走る。

全速力で先にある交差点に差し掛かる。

 

ふと後ろを確認すると男は私を猛烈な勢いで追いかけてくる。

しかも、息一つ乱していない。対する私は、激しい息切れに襲われ、喉に徐々に痛みがわいてくるのを感じた。

不味い。このままではすぐに追いつかれてしまう。

 

それでもどうにか走り続け、あまり人気のない工場の敷地前に差し掛かった。

―その時だった。私は物陰から何者かに腕を引かれその方向に倒れ込んだ。

 

「…大丈夫?」

 

少し低めの女性の声が耳に入ってきた。声のする方向に目を向けると、

そこにはコートを羽織り、マスクをつけサングラスをかけた女性がいた。

 

「…追われてるのね。」

「あの…えっ。」

 

駄目だ。またも突然の展開に加え、息切れも重なって、とても声が出ない。

 

「大丈夫…ほら落ち着いて。」

 

そういうと、女性は私の背中をさすってくれた。

 

「ハァ…ハァ…。…ありがとうございます…。」

「怪我はない?」

「は…はい。」

「追われてる原因はそれ…?」

 

女性はそういってケースを指さす。私は頷く。

 

「…はい…大事なものなんです。」

 

女性は見るからに怪しい格好をしている。だが、その反面この女性からは何とも奇妙な安心感のようなものを感じるのだ。

 

「…頑張ったわね…もう大丈夫。」

 

女性はそういって私に微笑みかけた。

 

「見つけた‼」

―見つかった。さっきの男だ。しかも2人ほど仲間を連れている様子だ。

 

すると、女性は私に言った。

 

「お疲れのところ悪いけど、後5分だけ走れる?」

「えっ?」

「よし、逃がすなッ‼」

 

1人の号令で残りの2人の男がこちらに向かってくる。2人とも身長は高くないが、

半袖から伸びた腕にはおぞましいばかりの筋肉が張り付いている。追いつかれたら終わりだ。

 

…走らねば。

 

「逃げるわよ‼」

 

そう言った女性に手を引かれ、私は再び走り出した。

女性のリードを受け、工場の敷地内にある建物や重機などに上手く身を隠しながら逃げ続ける。

時間が経つにつれ、だんだんと足が重くなってくる。

 

「ハァ…ハァ…。」

「後2分、頑張って‼」

 

女性は私を励まし、手を引いて走り続ける。

 

「あっ…‼」

 

―しまった。足がもつれた。私はそのまま、地面に倒れこんでしまった。

 

「大丈夫⁉」

 

心配そうな顔をする女性に、立ち上がって応える。

 

「…どうにか―」

 

―パンッ―

 

何かが破裂したような音が鳴り響いた。

次の瞬間、そばの建物に立てかけてあった資材がこちらに倒れこんできた。

 

―ガシャン‼―

 

資材に行く手を阻まれた。爆発音がした方向を振り向くと、

後から合流したうちの一人が拳銃を構えてこちらに歩いてくる。

 

「このガキッ‼追いかけっこはここまでだっ‼」

 

さらに銃声を聞きつけたのか後ろから残りの2人も現れた。―ここまでか。

私は絶望感に襲われながら女性の方を見た。すると、何故か女性は笑みを浮かべている。

 

「時間ね…。」

「時間…?」

 

そういえば女性は逃げる時に5分といっていた。あれは一体どういうことだったのだろうか。

そう思った瞬間。

 

―スタッ―

 

私達に迫る男たちの進路を遮るようにして、人のような形をした白い物体が、私たちの目の前に降り立っていた。

何かの見間違いかと思い、一度瞑って再度目を開く。

すると、一瞬では確認できなかった白い物体の正体が見えてきた。

 

白いアーマーのようなものを装着し、肩からは灰色のマントを翻している。

手には杖のようなものを持っているようだ。どうやら人間ではあるらしい。

頭部はヘルメットを着けているようで、顔の大部分は黄色いパーツで覆われ、赤い縁取りのされた目のような意匠が見て取れる。

そして耳のあたりからは海鳥の翼を思わせる部品が伸びていた。

全体としてその姿は、まるで特撮映画の類に登場するヒーローのようだ。

 

「任せた!」

 

女性は白い人に向かってそう呼びかけた。すると、白い人はこちらに顔を向けて静かにうなずいた。

そして、白い人は拳銃を構えた男に向かい駆け出した。

 

―バシッ―

 

一瞬のうちに男の手を杖で打ちのめし、落とした拳銃は人のいない方向に蹴り飛ばす。

そして、杖の先端を男の胴体に突き立てた。

 

―バリバリッ―

 

青白い電流のようなものがほとばしった。次の瞬間、男は痙攣しながら地面に倒れ伏していた。

残る二人の男が白い人に向かって駆け出す。対して白い人は睨みつけるような挙動で二人の男を向いた。

すると、二人は一瞬怯んだ…が、すぐに白い人に向かっていこうとする。

この間、十秒ほどであろうか。そして、その様子を呆然と眺めていた私に女性は言った。

 

「ほら、ボーっとしてないで逃げるわよ!」

 

そういった女性に手を引かれ、私はその場を後にする。

去り際に鈍い音がしたので、最後にもう一度男たちの方向を見ると、

さらにもう一人が数メートル離れた場所に転がってのたうち回っており、残された最後の一人の顔は青ざめているようだった。

 

謎の白い人の乱入により、私と女性は無事にあの場から逃げおおせた。

その後、女性に促されるまま、共にタクシーに乗車し、埋め立て地を後にした。

 

 

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